2005年01月15日

書評:弓と禅

『弓と禅』(オイゲン・ヘリゲル、福村出版)

ドイツの新カント学派の哲学者であるオイゲン・ヘリゲル氏(Eugen Herrigel)が日本の大学に在任中に弓道の段位を得るまでの修行の記録だ。

ヘリゲル氏(Herrigel)は弓道を論理的に理解し、自らの行動を意識的に支配しようとする。しかし、弓道は論理ではなく経験を要求し、自意識を捨てることを要求する。現代の日本人はヘリゲル氏に近い。だからこそ、彼のつまずきは私たちに理解しやすい。日本の芸道と近代合理主義の違いがどこにあるのか、弓道の難しさがどこにあるのかがよくわかる。

5年以上の修行をして、ヘリゲル氏は見事段級審査で五段に合格する。その過程での師範と弟子との会話と行動に感動する。禅に通じる弓道の奥深さに感銘を受ける。(エピソードはあえて紹介しない。これから読む人のためにとっておきたい)

余計な描写を排して重要な部分だけを追った記述は簡潔で読みやすい。短いながらも内容のつまったすぐれた一冊だ。巻末にはヘリゲル氏の生徒であり翻訳者である稲富氏の追想が載っている。これを合わせて読むと理解が深まる。学者としてのヘリゲル氏の姿が実直で好ましい。

人によっては人生観が変わるほどの衝撃を受けるかもしれない。間違いなく名著だ。

じつはこの本を20年前に買った。今まで放置しておきながら急に読み出したのには理由がある。写真家のアンリ・カルティエ=ブレッソン(Henri Cartier=Bresson)が『弓と禅』を愛読書にしていたことを知ったからだ。

ブレッソンがたんに禅に関心があるだけだったのか、それとも禅を写真撮影に応用したいと思ったのかわからない。しかし、禅につながる写真道を考えることは魅力がある。自分が撮るのではなく、「それ」が撮るという経験世界。それには呼吸法から始めなければならないが…。

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