書評:評論家入門
『評論家入門―清貧でもいいから物書きになりたい人に』(著者:小谷野敦,出版社:平凡社新書)
最初に評論とは何かを論じている。評論、エッセイ、随筆、などに関する日本語の混乱が日本人の書いた評論のいい加減さにつながっていることがわかる。
評論は学者の論文とは違うが、それでも論証がないといけない。そこで「学問八割、はみ出し二割」と小谷野氏は言う。はみ出しとは論証はないけど、面白い大胆な仮説のことだ。この割合は恣意的なものだけど、あまりに放言のすぎるものを読まされてはかなわないので、大筋では同意したい。
このあと学問的にあやしい評論を俎上に乗せて、その論証の不足と文章の不備を指摘していく。この部分は対象となっている人たちのことを知らないとつまらないかもしれない。
「評論家修行」という章では小谷野氏本人が人気
作家評論家になるまでの苦労話を披露している。私にはたいした苦労には見えないが、どんな思いで小谷野本人や評論家たちが生活しているのかが垣間見えて面白い。この人の若い頃の鬱屈は研究室や知り合いなどのまわりが先に売れたことにあるようだ。もてないことについては特に語っていない。
論争については過去の実例や自らの例をあげて語っている。言論人はいろいろと大変のようだ。
最後に小説の時代は終わり、これからはエッセイの時代だという指摘があった。
とまあ、けっして評論家になるための本ではない。評論を読むときにこういうことを知っておくと面白いよという感じで読むといい。
サブタイトルに「清貧」とあるが本文には「年収五百万円でいいから、人交わりをするよりは本を読んだりものを書いたりして生きていきたいと思う人だけが、その道を選んでもらいたい」と書いてある。好きなことをして五百万円を稼げたら御の字だろう。おそるべき世間的な無知。そのあとに書くだけで300万円に達するのは容易ではないとも書いてあるが、それにしても「清貧」はないだろう。
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Posted by cozy_009 at 12:35│
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評論家入門 が 小谷野氏の著作であるとは初めてしりました。ありがとうございます。
「もてない男」を数日前に読了したばかりです。私としては大変おもしろかったです。メンリバーなんですよね、この方は。しかしながら、
このような本をたてつづけに出版されますと、業界での評判は芳しくなくなるかもしれません。また、この著者が人気作家であるとは!このことも存じませんでした。てっきり比較文学専門の学者かとおもっておりました。博士課程終了(東京大学)カナダのBC大学に留学していたとか、一浪後東大に入学したと著書にありました。
中島義道氏とのやりとり(新潮45)などを読んでいると、かわったひとなのかなぁと思えてくる...よくいえば学究肌、一途。斉藤美奈子氏のようなあっけらかんとした陽性なところのまさに対極にある要に思えます。上野千鶴子さんとはどういう関係なのか、雑誌で対談でもしてもらいたいものです。
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作家というのは物書きという意味です。
学術論文だけを書いている学者ではありませんから、作家と書きました。
また別の本を読んだのですが、どれを読んでも『遊女の文化史』を書いた佐伯順子って人がボコボコに叩かれています。
ここまで同じネタを繰り返すってのもすごいなあ。
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確かに、おっしゃるとおりです。作家というと、つい林真理子とか渡邊淳一(愛ルケで話題の)を連想してしまう、石頭の私でした。すみません。
小谷野氏は確か大阪大学助教授とありましので、大学の先生を続けながら一連のご本を書いていらっしゃるのだとしましたら、容易に年収500万円以上を維持しつづけられるのではと思います。
佐伯順子さんのご本も読んでみたいと思います...
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まぎらわしいので作家を評論家に直しておきました。
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