2005年03月22日

書評:健康ブームを問う

『健康ブームを問う』(著者:飯島裕一編著,出版社:岩波新書)

医療問題に詳しい信濃毎日新聞社編集委員の飯島裕一が「健康」をテーマに7人の専門家にインタビューしたもの。マスコミの流す目に付きやすい情報や無責任な口コミには気をつけなさいという啓蒙的な内容だ。

面白かった発言を拾ってみる。

最近はインフォームド・チョイスという考えがあるそうだ。「医師が包み隠さず説明して、患者が自らの意思で治療法を選択する。医師は選択を尊重して、十分なフォローをする」ということ。インフォームド・コンセントからさらに進んできているということらしい。実現しているのはごく一部の医療機関だろうと思う。

アメリカの医師会が「民間療法を正しく判断する手引書を出版」したそうだ。いい面と悪い面が書いてあり、あとは自己責任でという態度がアメリカっぽいという。

日本で結核が減ったのは結核検診やBCG(結核の予防接種)のおかげではなく、日本人の栄養状態がよくなったからだそうだ。イギリス、ドイツ、フランスでは抗生物質もBCGもない時代に結核は減っているし、現在でも栄養状態が悪い地域は結核が多いという。このように因果関係をつきとめるのはむずかしい。私たちは医学のおける嘘を信じていることが多いみたいだ。

炭水化物が何%、たんぱく質が何%という食事のバランスはなにがいいのかは本当はわかっていないそうだ。

アトピーの原因論について。「清潔になり寄生虫がいなくなったため」という説を否定している。この本では排気ガス説のほうを支持している。清潔原因説は最近私も雑誌「ウォーキング」で目にした。最新の考えであってもはっきりと結論が出ていないものは簡単に信じない方がいいのだろう。

睡眠は脳の疲労回復に必要だそうだ。短時間睡眠は障害が起こるとか。子どもの夜更かしに警告していた。

最近の睡眠薬は「多量に服用しても自殺できないほど安全になっています」とのこと。自殺予定者は別の方法を考えなくてはいけないということか。それで七輪で練炭を燃やす自殺が増えているのだろうか。

たんに寿命を延ばすだけでなく、健康寿命を延ばすことが大切だという。健康寿命にはいろいろ定義があるが、日常の基本動作において自立して暮らせる期間だという。

「日本人は痴ほうを抱えて暮らす期間が欧米に比べて長い」そうだ。その理由は日本人には脳血管型の痴ほうが多いからだという。アルツハイマー型の発生率は同じくらい。さらに脳血管障害は「寝たきり」最大の原因疾患だそうだ。

「まず、脳血管疾患を招く高血圧、高脂血症、糖尿病、肥満を予防することです。さらに、これらの病気の危険因子は、塩分の多い食事、喫煙、運動不足なので、それに注意しよう…」最近、よく言われている生活習慣病の予防がやはり本道のようだ。

最後にけっこうショックな話をひとつ。「緑黄色野菜に含まれるβカロチンには、がん予防効果が期待されブームになったことがあります。しかし、数万人規模の臨床試験がアメリカとフィンランドで行なわれた結果、βカロチンの錠剤を投与された人たちに、がんが増えていることが分かりました。βカロチンは、市場から消えていったのです。しかし、このような厳密な臨床試験を受けていないものが他にも多数みられます。」

ここで言っている市場とはサプリメントの市場だろう。それにしても科学的に正しいと思った健康知識がこうも簡単にひっくり返されるのを見ると何を信じていいのかわからなくなる。厳密な臨床試験を受けたかどうかなんて素人にはわからないのだから、どうしたらいいのだろう。一時期、老人は肉を食べない方がいいという説もあったが、今は逆を言われているし、本当にわからない。

科学の特徴に反証可能性というのがある。反証の可能性があるということは科学の仮説はつねに暫定的仮説だということだ。たとえれば学説はスポーツの世界記録のようなもの。新記録が出れば過去の記録の栄光は失われる。だから、信じる信じないという性質のものではない。つまり、自己責任でどうぞ…。


この記事へのトラックバックURL

http://trackback.blogsys.jp/livedoor/cozy_009/16928396
この記事へのコメント
■投稿者:musigny at 2005年03月24日 04:19
いつも素晴らしい書評を読ませて頂いています。今回のも実際の本を読まなくても済んじゃいそうな勢いですね。私も自分の仕事に役立ちそうなので、いずれ手に取りたいとは思っていますが・・・。
一つの微量物質に対して、科学者は栄養学的に実験を行います。まず、培養細胞に投与してどうか、実験動物に投与してどうか?「実験室レベル」での話になります。そこで、良い作用が証明できた場合、科学者も商売なので論文を書いて世間に広めます。製薬会社、食品会社はこの時点で飛びつきます。次にhumanに投与してチェックをします。ここでも統計学的に優位な作用が出れば「効果あり!」となります。
しかし時が経ち、多人数への大規模studyをしてみると・・・。実験室レベルや少人数対象の時の効果が否定されたり、それこそ逆効果が出たりします。
ここらへんに、トリックがあると私はいつも思ってます。(わかりにくい文章ですいません。)
--+--+--+--+--+--+--+--+--+--+--
■投稿者:Cozy at 2005年03月24日 20:12
いらっしゃい、musigyさん

自分用のメモと感想程度のものです。お恥ずかしい。

おっしゃることはわかります。じつに貴重な情報です。ありがとうございます。

このような効果があるなしの実験とともにメカニズムの解明がやはり必要なんでしょうね。
--+--+--+--+--+--+--+--+--+--+--