2005年04月02日

書評:浪費なき成長―新しい経済の起点

『浪費なき成長―新しい経済の起点』(著者:内橋克人,出版社:光文社)

経済学者、内橋克人による日本の政治経済批判。初版2000年2月5日なので一部現状と違うところもあるが、内容はさほど古くなっていない。

国と銀行が低金利(当時ゼロ金利)の政策と国債の過剰発行によりローリスクで自分の身を守りながら、一般投資家を刺激することで市場にお金を回す方策がとられているのは本末転倒であると批判する。プロと素人が株の投資で争えば素人が損をするのは当たり前で、それを自己責任などといいながら国は庶民にとってハイリスクの社会を作ろうとしているという。

ちなみに低金利(2000年8月までゼロ金利)により一般民間人のもらえるはずだった利息192兆円もあるそうだ。それが銀行、企業に移転される。低金利で金を預けることが銀行への「所得移転」なのである。さらにアメリカへと金が流れているそうだ。

規制緩和の実態は弱肉強食の世界、「剥きだしの資本主義」であり、所得の格差をますます広げていくだけと、著者はアメリカ型の悪しき資本主義を批判する。自然災害時の対策も社会インフラの整備ばかりでそこに働く人の生活はよくならない。それは生産ばかりを優先し、生活をないがしろにする政治のあり方に問題があるからだという。

前半部分に関しては経済アナリストの森永卓郎なども同じことをよくテレビで言っているが、確かにその傾向は強まっている。非正社員の増加と差別給与体系などはその際たるものだろう。一部労働者の奴隷化がまちがいなく進んでいる。つまり規制緩和が企業に有利なように作用しているのだ。今は雇う側の自由ばかりが拡大している。そこには労働者の権利と人権を守る規制が必要だ。

消費者は無駄な浪費をせずに生きることを選びつつあるのは賢い選択だ。効率よりも安全安心を選びつつあることに希望を見出せる。たとえば遺伝子組み換え野菜を買わないことでアメリカ政府の方針を転換させたのは消費者の利益を求める行動であると著者は高く評価している。

一般消費者の消費動向もそれなりに力を持つだろうが、志のあるNPOとかNGOの活動が活発化することで社会がいい方向に動く可能性はあるのだろう。政治家や企業にお任せではよくなることはないように思う。

これからの日本は浪費をせず、生産と生活が一致した社会を作らなければならない。そのモデルとしてデンマークやドイツをあげている。デンマークは高いエネルギー自給率、生活者にとって公平なワークシェアリングを実現している。ドイツは住宅費を安くするための政策が取られている。

デンマークのエネルギー政策とワークシェアリング、スウェーデンの福祉、ドイツの住宅政策は見習うべきところが多いようだ。アメリカばかりを向いていてはダメだろう。

さらに著者は自給自足圏の形成という構想を語っている。いいかえれば、「持続可能な地域社会」である。そこではF(食料)とE(エネルギー)とC(ケア)の地域内自給が行なわれる。著者はこれをFEC(ふぇっく)と呼んでいる。

ひとつの理想であるとは思うが、そこまでやる必要があるかどうかはわからなかった。すべてを地域の中でやっていくには条件がそろわない地域もあるだろう。やはり地理的条件の地域差は大きいと思うのだが。

これからの重要キーワードは「持続可能」だ。今のやり方は無理がある。いずれ破綻する。その典型がアメリカだ。そのことに気づき浪費社会ではなく、質素でありながら豊かな持続可能な社会をつくる。その方向に日本も進まなければならない。

経済学の話はこちらが無知なせいで理解ができないところがあったが、全体的な考えは同意できるものだ。経済学者が日本の政治経済への全体的な批判を試みる本は始めて読んだような気がする。もう少し経済学を知らないといけないなと反省もした。

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この記事へのコメント
■投稿者:kazu_kmetko at 2005年04月03日 09:00
つぶさに内容を紹介しながらの書評、読み応えがありました。ありがとうございます。

3月の後半、パートですが、就職活動をしてみました:
  ワークシェアリングなどと体裁のいいことは今はクチだけで、日本の実態はおいしいところは既得権のある「正社員」「正職員}に与えたまま、ニッチの部分だけ、時間給だけ(+交通費実費)を支払えばいい労働者に回そうとしている。そのような現状に行き当たりました。多くの経営者は「能力があって」会社にとって「都合のいい」労働者を探しているだけ。パートの有休や育児休業については事実上砂上の楼閣です。ある100人規模の団体(社団法人)で半数がパートだが、パートの就業規則がないのです。勿論毎日きてもパートだから有休なし。

オランダもワークシェアリング制度がうまくいっている国のようです(2/25号クロワッサンをみました)。自分にとって働きたくても働けない現状が立ちふさがっています。
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■投稿者:Cozy at 2005年04月03日 23:25
現場の実体験をありがとうございます。

法律で解決する問題ですから、今年中にでも手をつけてもらいたいものですね。非正社員が圧力団体になるというの一番いい解決方法かもしれません。
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