2005年05月08日

書評:江戸芸術論/永井荷風

『江戸芸術論』(著者:永井荷風,出版社:岩波文庫)

タイトルは江戸芸術論となっているが、その中心は永井荷風のさびしさと果敢なさの美学が充満した浮世絵論にある。とりわけ冒頭の「浮世絵の鑑賞」「鈴木春信の錦絵」のふたつにすべてがあらわれている。

「浮世絵は余をして実に渾然たる夢想の世界に遊ばしむ。浮世絵は外人の賞するが如くただに美術としての価値のみに留まらず、余に対しては実に宗教の如き精神的慰藉を感ぜしむるなり。」

いかに荷風がその浮世絵世界に魅惑されたか。そこに共感を感じなければこの本はまったくつまらない。できれば鈴木春信の美人画、北斎と広重の風景画に対する興味くらいは持っていた方がいい。荷風は特にこの三者を賛美しているからだ。加えて墨東綺譚への共感があればさらに楽しい読書となるだろう。荷風の美意識の根底に古い日本への憧れがあることがわかってくる。

明治維新において浮世絵は日本政府および大多数の日本人に省みられることのなかった恥ずべき文化だった。浮世絵は多数が海外に流出し、外国の美術家や好事家に愛好され、そこで研究の対象となる。

明治の日本人の意識が急速な文明化にばかり向き、かつそれが旧日本文化への侮蔑と裏腹であったことを思えば、浮世絵の悲しい歴史への共感もまた深まるというものだ。そういう歴史的観点もふまえてこの作品は読まれるべきだろう。

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An adoption【擬藤岡屋日記】at 2005年06月21日 00:20