2005年05月22日

書評:日本経済「暗黙」の共謀者/森永卓郎

『日本経済「暗黙」の共謀者』(著者:森永卓郎,出版社:講談社プラスアルファ新書)

政府が主導しているアメリカ型の資本主義社会が実現すれば所得格差はさらに広がる。この傾向を意図的に拡大している人たちがいる。それは経済強者だ。企業経営者、マスコミ、御用学者たちだ。彼らは構造改革の号令の元にアメリカ型の資本主義を導入しようとしている。それとともに意図的にデフレを継続させている。

デフレのおいては現金を持っているやつが強い。現金の価値がより高まるからだ。彼らは強い現金で安くなった株や不動産を買い占め、インフレ路線に転換することでその資産価値を増大させることができる。

経営者は長引くデフレの中で多くの社員をリストラで解雇して、低賃金のパート労働者を多く作り出して、経営しやすい状況を手に入れた。

御用学者は人間を経済的な勝ち組負け組みに分ける価値観を植えつけ、勝ち組になるための本を売り、講演会を開いて、稼ぎまくった。マスコミは高収入で安定した仕事を持っている自分たちにプラスであるデフレをよいことのように言い立てる。

こうした暗黙の共謀者の策略により、デフレが続き、彼らの相対的な所得は増えた。やがて海外の安い労働力が日本に流入して、日本人の底辺労働者とともに低賃金労働市場が形成され、経済強者は安い労働者をドライバーやメイドとして雇うことができるようになるだろう。結果的に彼らが夢見るアメリカの成功者のような生活に多少なりとも近づくことができるのだ。

さらに恐ろしいのはアメリカの投資家たちだ。都内の不動産やゴルフ場を買いあさり、不良債権を安く買いあさる。経営破たんした企業もがアメリカの資本が買いまくっている。彼らが買った物件はインフレにもどれば大きな利益を生みだす。

青い目の企業経営者が日本人を酷使して利益を上げる状況はすでに生まれつつある。筆者である森永氏はこのことを黙っていられないとこの本を書いたそうだ。

しかし、彼の考えではアメリカ型資本主義=格差社会への流れは変えられないという。そこで提示されるのが例の300万円時代を力を抜いて楽しく生きましょう論だ。

どこまで意図的に行なわれたのかは定かではないが結果的に強者がますます強くなる社会の流れがあることは間違いない。森永氏も言うように、アメリカ型の資本主義よりもヨーロッパ型の資本主義を見習うべきだろうし、ワークシェアリングの導入こそがよい社会を作る方法であろうと思う。

しかし、多くの日本人は自分もまた勝ち組になるだろうと甘い期待を抱いて現状を変革しようとは思わない。

本書は経済に詳しくない人でも面白く読める。無味乾燥な経済学の入門書のようなものよりもとっつきやすいのでおすすめ。規制緩和した日本がどこに向かおうとしているのかが見えてくる。そして、アメリカ型資本主義がいいことであるとの思い込みを正してくれるのではないだろうか。

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