2005年05月24日

書評:陸奥宗光とその時代/岡崎久彦

『陸奥宗光とその時代』(著者:岡崎久彦,出版社:PHP研究所)

陸奥宗光の父親は紀州藩の要職にあった伊達宗弘だ。宗弘は藩内の権力闘争に敗れ、失脚し、家禄を取り上げられる。そのせいで宗光少年は正規の武士の教育を受けられず、武を捨てて文のみで生きていく決心をしたようだ。

陸奥は勝海舟に出会い、開花論に目覚め、幕府の海軍操練所に入り、次に坂本竜馬の海援隊に入る。

維新後は外国事務局御用掛、兵庫・神奈川県等知事、大蔵省租税頭になるが、政府への不満から辞任。元老院議官として復帰するが、薩長藩閥の政府では十分に力が発揮できない。西南戦争の際には薩摩に協力的だったとして逮捕、5年間投獄される。出獄後はヨーロッパを3年間留学する。帰国後外務省入省。

このあたりから陸奥はかつて伊藤博文との信頼関係と思想的な一致により次々と大きな仕事を成し遂げていく。とりわけ重要な仕事は不平等条約の改正(関税自主権)と日清戦争での勝利だ。その過程での陸奥の思考と行動が見事である。

このようなすぐれた人物が外交官にいて、さらに伊藤のような人物が総理大臣にいたからこそ、日本は西欧列強による植民地支配を逃れることができ、国内体制を充実させることができた。というのが、本書のメインストーリーだが、現在の平和主義からすれば、日本を帝国主義に導いた悪いやつという見方もできるかもしれない。しかし、過去の歴史を現在の価値観から裁いてはいけないとは著者の言葉でもある。その当時の価値観と世界の状況の中にあって人々は行動したことを想像力をもって補足しなければならないだろう。

もし近代国家を目指し、列強と肩を並べることをしなかったら、どうなっていたか。ただでさえ関税の不平等を強いられていた日本は膨大な富を海外に流出させていたのだ。さらに不当な条件での国交を強いられ、列強に蹂躙される悲惨な後進国であり続けた可能性が高い。

著者の岡崎氏は元外務省の外交官であるだけに、明治維新から日清戦争の外交に焦点を当てながら、国益の観点から評価している。客観的な記述と公平な視点と冷静な態度で一貫しているので読みやすい。また該博な知識により肉付けがされていて本筋とは離れた部分でも読ませてくれる。

著者によるこのシリーズ(全5冊)は複数の学者の協力により内容的な検討がしっかりとなされているという。その点でも安心して読める。

今までは司馬遼太郎の小説で歴史を知ることが多かったが、やはりこのような事実を積み重ねた歴史書はよみごたえがあって、読後に充実感がある。感動よりも知識を求めるならやはり歴史書か。おすすめ。

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