2005年06月02日

書評:蒲団/田山花袋

『蒲団・重右衛門の最後』(著者:田山花袋,出版社:新潮文庫小学館)


「蒲団」は田山花袋が若い女の弟子へ抱いた恋情を描いた小説。明治の自然主義文学のさきがけとも言われ、文学史的に重要な作品とされている。

発表は明治40年。その時代性を反映した作品世界が面白い。

中年の小説家である竹中時雄は若く美しい女性、芳子を弟子にとる。どうせブスだろうと高をくくっていたら美人がやってきたのでおおいに驚く。生活は華やいでばら色。しかし、女房子どものいる時雄は浮気ができない。時雄はこの女房にはすっかり飽きている。時雄は情欲を掻き立てる若く美しい芳子にひたすら恋焦がれる。

いろいろと懊悩しているうちに芳子に恋人ができる。この時代、結婚前の男女の交際がほとんど禁じられていたようで、若い二人がいっしょにどこかへ遊びに行っただけで大騒ぎ。汚れた行為(セックス)があったのではないかと時雄は疑心暗鬼。さらに相手の男が文学者になるとか言って上京してきて、時雄は大混乱。男は説得しても帰らない。時雄は芳子の故郷から父親を呼ぶ…。

こんな具体に話は進むのだが、やはりその倫理観のあり方などが時代の記録として面白いと思う。時雄は新時代の女性は自由であるべきだとか西洋の女性のように自立が必要だとかききかじりの男女平等論を披瀝しているが、じっさいに芳子がハイカラな身なりで遅くまで外出していたりするだけで心穏やかではない。神聖な恋は許せても(実際は義務感からそう装っているだけだが)、汚れた行為は断じて許せない。

可哀想なのは芳子の方だろと思うけれど、けっこう本人もいけないことをしてしまいましたって反省しているところがまたけなげ。でも、うまいこと時雄をだましていた彼女もなかなかのクセモノかもしれない。

男の身勝手や女性への差別的意識、新しい思想と古い倫理観。大人としての義務感と本音との葛藤。こうしたものがないまぜになって文学史上の一大事件ともなったトホホな物語を作り出している。古いからこそ面白い。近代の一端を知る一冊としてもおすすめ。

なお「重右衛門の最後」は読まなかった。

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