2005年06月03日

書評:「旅情詩人 大正・昭和の風景版画家 川瀬巴水展」図録

『旅情詩人 大正・昭和の風景版画家 川瀬巴水展 図録』(発行:大田区郷土博物館)

ゴッホ展を見たときに美術館の4階で東京風景の小さな特集展示を行なっていて、そこに出展されていた東京の版画にひきつけられた。先に紹介した『新東京百景 木版画集』にも収録されていた作品もいくつか展示されていて、興味を惹いたのだが、とりわけ感銘を受けたのは川瀬巴水(かわせはすい)と織田一磨(おだかずま)のふたりだった。

ここに紹介するのはそのひとり、川瀬巴水の特別展の図録だ。大田区立郷土博物館が巴水の特別展を開いたのは、巴水が馬込の文士村に長く住んでいたからだ。しかし、馬込に住むほかの作家たちとの交流については不明とされている。

巴水は明治16年(1883)5月18日に東京芝区露月町に生まれ、昭和32年(1957)で亡くなっている。享年74歳。その間、明治、大正、昭和の風景を描き続けた。旅先での風景も多く残しているが、やはり東京を描いたものも多い。北斎、広重と並べて三大風景版画家と評価する声もある。

その版画は浮世絵的な感性で描かれている。画題も現代的なビルなどは描かず、日本的な自然や神社仏閣が多い。また、雪、雨、霧などの天候を好んだところも広重を髣髴とさせる。しかし、伝統的な表現ばかりにこだわったわけでもないようだ。「東京十二ヶ月」のひとつ「三十間堀の暮雪」での雪の表現は版画としては斬新ではないだろうか。

巴水の静謐な作品世界はヒーリング効果がありそうだ。懐かしくも夢のような風景に心が休まる。ほっと一息つきたい人にはおすすめだ。

川瀬巴水、増上寺の雪、hasui-zoujoujinoyuki.jpg
川瀬巴水『増上寺の雪』(1953)


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