2005年06月04日

書評:小村寿太郎とその時代/岡崎久彦

『小村寿太郎とその時代』(著者:岡崎久彦,出版社:PHP研究所)


日清戦争後、朝鮮半島への進出をめぐってロシアと日本の対立が激化する。すでに満州に勢力を伸ばし清国に拠点を築きつつあるロシアが朝鮮半島をおさえてしまえば、やがて日本も侵略されるのは間違いない。日本の独立を守るためには朝鮮半島は何がなんでも日本の勢力下におかなければならない。

日本はロシアのライバルである英国と日英同盟を結び、日露戦争へと突入する。ロシアは圧倒的な軍事力(とくに陸軍)を有していたが、極東への軍事力の配備が遅れていた。早期の開戦が幸いし日本はなんとか互角に近い戦いができた(日本の方が被害は大きい)。しかし、戦いが長引けばなからずロシアは盛り返してくる。しかもバルチック艦隊が日本へ向けて出発している。どうなる日本。

そこで有名な日本海海戦の奇跡的勝利がもたらされるのだが…。一般に知られているのは敵前大回転の作戦だ。しかし、本書を読むとそれよりも日本の砲弾の命中率の高さと発射速度の速さがなによりも勝敗を分けたようだ。相手のバルチック艦隊が急ごしらえの乗組員を乗せ、長旅を続けている間に、日本の連合艦隊は砲撃の練習を繰り返していた。つまり日本人の完全主義と勤勉さによる勝利といえるのだ。

さらに日本に幸いしたのはロシアの国内事情だった。さらに戦いが続けば日本はやはり勝てなかったと思われる。しかし、ロシア国内では共産勢力による反政府運動が高まっていた。ロシア皇帝(ツアー)は対日戦を続ける気は満々だったが、国民的な反戦の機運、反体制運動により戦争の継続は難しくなっていた。しかも、この運動には日本から工作員が送り込まれ運動資金も日本から出ていたというのだ。

本書の主人公は各国の大使(公使)をつとめ、のちに桂太郎内閣の外相として活躍した小村寿太郎だが、睦宗光ほどにはその人物像はクローズアップされていない。人物的には魅力に欠けるし、戦後の対応であまりにタカ派的な考えが目立つ。しかし、親露派もいた中で対ロシアの早期開戦をとなえたのは卓見であったし、日英同盟をおし進めていったのも結果的には日本に大きくプラスとなった。小村のおかげで日露戦争は勝てたともいえる。著者としてはその働きは十分評価しながらも、人物伝的な扱いはできなかったようだ。

そのかわりクローズアップされたのが日露戦争の経過だ。その判断は間違っていないようだ。日本がなぜ勝てたのかという問題は複雑で世界情勢や歴史の流れとも関係が深い。どうしても紙数が必要になる。さらに言えば、紙数を費やしたとしても日本の外交史という本シリーズの枠内では十分には語れない。そういう意味ではさらに大きな世界史的観点での歴史書が必要になるだろう。

日本が世界の列強と並び立つ必然と偶然。やがて悲劇へと突入する予兆。明治はこのようにして終わったのだった。多くの資料を駆使し、7人の専門家の検討に耐えた記述。レベルは高い。おすすめ。

人気ブログを紹介してます。  click on blog ranking


この記事へのトラックバックURL

http://trackback.blogsys.jp/livedoor/cozy_009/24100133