『「悩み」に負けない!』(著者:河野良和,出版社:PHP研究所)
タイトルから推測すると安っぽい人生論のように思えるが、じつは催眠の専門家による心理療法の本。
著者によると人間の感情は出来事に反応して生まれる一次感情とその感情に対して反応して生まれる二次感情からなっているという。一次感情が不快なものであると人はそれを嫌なものだと考え、その感情からなんとか逃げたいという二次感情を持ってしまう。じつはこれが人間の心を不安定にする大きな原因となっている。
たとえ一次感情が不快なものであっても、その感情を落ち着いた気持ちでじっと眺めてみるとさほど嫌な感情ではないことが多いし、さらに自分の感情を眺めていると、一次感情もおさまってきて、不快さはなくなる。
もし、感情を眺めてもやはり不快であるというのであれば観察をやめて、感情を分断することで不快さが増大するのを抑えることができる。
自分の心を観察するところからこの方法は「感情モニタリング」と呼ばれる。クリシュナムルティの受動的自己凝視に似ているが、こちらの方がより詳細に分析されているし、理論化もされているし、実践的だ。
自分の感情に振りまわされずに観察をするという点ではテーラワーダ仏教のヴィパッサナー瞑想も同様だ。ということは、ヴィパッサナー瞑想には感情モニタリングの効果も含まれていると考えてもいいだろう。
また、暗示という面から見た「言葉」や「思い」の重要さも指摘されている。その部分がテーラワーダ仏教の慈悲の瞑想などの理論的説明ともなっていて、テーラワーダ仏教や精神的指導者たちの教えを科学的に理解するためにも読んでみる価値はある。
(とっても、本書にクリシュナムルティやテーラワーダ仏教との関連が指摘されているわけではない。私が勝手に関連付けて読んでいるだけだ。)
感情モニタリングの本は以前にも読んだことがある。『触感刺激法で性格が変わる』(大和田二郎、ノンブック)という本だ。ちょっと不快なこと、気になることがあるときに試したことがあるが、じっさいに効果があった。そういう経験があったので、より詳しいことが書いてある本書を読んでみたのだ。
実際、本書の方が理論的な説明が多いので納得できるし、重要ポイントもよくわかる。「こころ」に興味がある人全般におすすめのしたい。