2005年07月26日

書評:重光・東郷とその時代/岡崎久彦

『重光・東郷とその時代』(著者:岡崎久彦,出版社:PHP研究所)


岡崎久彦の日本外交史シリーズの4冊目。

時代的には満洲事変から真珠湾、敗戦までを扱っている。しかし、軍部、政治家が記述の中心であり、外交の出る幕はあまりない。世論を挙げてのナショナリズムが戦争への一本道へと突き進んでいく。

一般に軍部の暴走ということを言うが、当時は世論が右傾化していた。そういう背景があってこその軍部の暴走なのだ。また軍部は上意下達となっていなかったのも注意すべき点だ。過激な思想を持ち、手柄を立てようとする若手が中国で勝手に戦闘をはじめたりしていた。現場の若手が下克上によって軍全体を引きずっていたのが実情のようだ。

強いリーダーシップが取れる政治家もいなかった。一方戦略のないバカな者は多くいて、松岡洋右(まつおかようすけ)のようなどうしようもない小人物が勝手に国際連盟を脱退したり、三国同盟を結んだりする。

太平洋戦争を「自存自衛のための戦争」と見る見方もあるようだが、基本的には「欲をかきすぎた」のではないだろうか。満州だけで満足していればさして問題はなかったのに、いくつもの戦争戦闘で勝ち続けていた日本はただひたすら国土を拡張し、植民地化をすすめようとしていた。

資本主義対資本主義の戦争として日米を戦争に導こうとする共産勢力の陰謀もけっして少なくない影響を与えている。日本が対米戦争を決意する原因となるハル・ノートを起案したのがソ連のスパイであったホワイト財務次官であったというのだ。この事実には驚いた。日本にはゾルゲがいたし、おそるべしソ連。

太平洋戦争で評価が難しいのが、「アジアの開放」だ。一方で帝国の拡大を目指す日本が同時に大東亜共栄圏を謳い、アジアの開放を実現しようとした。日本に有利な共栄圏ではあるが、宗主国の軍隊を追い払い、アジアの人々に教育をし、武器の使い方を教え、結果的にはアジアの開放を早めたことは間違いない。戦勝国からは否定的に見られがちなアジアの開放だが、明治以来の日本のテーマでもあり、他にも本を読んで追いかけたい。

本書は正直言って読みにくい。登場人物が多く、扱う事象が多く、それぞれに十分な説明がされているわけでもない。入門書とはとても言えない。しかし、読み通す覚悟があれば半端な本を何冊も読むよりもこれ一冊にぶち当たった方がいいのではないだろうか。条件付でお薦めする。



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