『幸福の政治経済学』(著者:ブルーノ S.フライ,アロイス・スタッツァー,出版社:ダイヤモンド社)
幸福についての研究書。何が人を幸福にするのかを過去の多くの知見からまとめているが、本書の特徴は経済と政治がどのように幸福と関係があるのかをあらたに示した点にある。
統計処理法についての細かいことを言ってもつまらないので、幸福に関係する各要因についてまとめ、ついでに私のコメントを記しておこう。
■性格的な要因
・楽観主義者の方が悲観主義者より幸福になりやすい。(非現実的な楽観主義でも)
・統制感を持っている(自分で状況を換えられると思っている)人のほうが幸福を感じている。(非現実的な統制感でも)
・外向的な人のほうが内向的な人よりも幸福を感じやすい。
コメント:
なるほどそうだろうという感じがする。悲観主義は馬鹿らしいし、自分の内面ばかりを見つめるような生活も御免こうむりたい。しかし、だからといって非現実的な楽観主義者にはなりたいとは思わないし、無理に外向的になりたいとも思わない。そのあたりの按配が自由にならないのが困ったところだ。私はしばしば悲観的になり、さらにしばしば内向する。朗らかな心はなによりの財産と言ったショーペンハウアーは悲観哲学の巨人だった。
■社会・人口統計上の要因
・加齢とともに不幸になるということはない。むしろ若者と高齢者は中年層より幸福だ。
・女性は男性よりも幸福だが、その差は小さく近年消滅傾向にある。
・自己評価による健康は重要な幸福要因である。(医師による客観的な健康評価の影響はこれよりはるかに少ない)
・独身者は既婚者より幸福度が低いが、近年縮小傾向にある。(離婚、死別などの幸福度はかなり低い)
・神を信じることと幸福のあいだには正の相関がある(信じる人はより幸福)。しかし、その効果は大きくはない。
コメント:
自分の健康に楽観的な老後が理想らしい。わかっちゃいるけど、これもまたむずかしい。せめて生活習慣病には気をつけたい。
健康は客観的な状況よりもそれをどう思うかが重要と聞いて、ストア哲学を思い出す。エピクテートスによれば、「人の心を乱すものは、ものごとではなく、そのものごとに対する解釈である」という。ちょっとしたことで気に病む人もいれば、かなり悪くなっているのに平気な人もいる。たとえ病気でも泰然としていたいものだ。
未婚者の幸福度が高まっている一方で、既婚者の幸福度は低下しているという。結婚しても幸福になるのが難しくなりつつあるのだろうか。とりわけ日本ではセックスレスが深刻のようだし、すごい勢いで晩婚化が進んでいる。家族というリスクに足踏みをする人が増えているようだ。
現在の東京は独身者が多いし、独身者が暮らしやすい環境になりつつある。結婚して失敗するよりはシングルのままでいるのもまたよきかな。
影響は大きくないにしても、神を信じていないことで損をしている気がする。だからといって急に信じられないし…。原始仏教ではダメだろうか。暗いよねえ、原始仏典は。
■経済的要因
・途上国においては幸福と所得の間に相関があるが、先進国においては幸福と所得の間に相関は認められない。
・失業は失業した本人を不幸にするだけではなく、それ以外の人の幸福度も低下させる。(リストラの不安感など)
・インフレは国民の幸福度を低下させる。
コメント:
年収が1万ドルを超えたあたりから収入が増えても幸福度や生活満足度は上昇しなくなる。B級遊民のブログで書いたようにも日本はもう頑張ってGDPをアップしてもしょうがない。働きすぎ。本書に「日本における国民一人当たり実質GDPと生活満足度の推移」のグラフが出ているが、これをみると、1958年から日本人の生活満足度はまったく同じだ。
みんなで仕事を分け合って失業をなくし、そこそこの生活費で暮らしていくのがよい。やっぱりワークシェアリングが正解だ。本書には高所得者から税をとって、再分配するのがよいとの提言もある。頑張った人には多くの所得をというアメリカ的競争主義は無用。累進課税の上限を下げたのは失敗だった。小泉総理の政治思想は国民の幸福にとってはマイナスだ。
■政治的要因
・直接民主制と地方分権は幸福を増大させる。
・幸福にとっては、実際の政治参加よりも参加する権利の方がより重要だ。
・外国人は、その国の国民よりも幸福度が低い。(投票権がないから)
コメント:
自分にはこの社会をどうするかを決める権利があるという意識が幸福感を高める。しかし、日本人の多くが、自分が投票しても何も変わらないという意識を持っている。これが日本人の不幸の大きな要因だろう。
地方分権を進め、住民投票による直接選挙をひろめること。これが今後の政治的課題だ。
総括的感想:
幸福の個人的要因はさておき、社会制度においては「仕事のシェア」と「政治決定権のシェア」を進めることが大切だ。このことを多くの人が認識すれば社会はいい方向に変わっていくのではないだろうか。
今後は私の読書に政治分野が加わりそうな予感。
本書はかなりおすすめの一冊。でも、重要な部分はまとめちゃったので、この記事を読めば十分かもしれない…。