タイトル一覧

書評:百年前の日本 〔普及版〕 モース・コレクション写真編 | 書評:我われは犬である/エリオット・アーウィット | 書評:新正体不明/赤瀬川原平 | 書評:セーヌ左岸の恋/エルスケン | 書評:腕白小僧がいた/土門拳 | アンセル・アダムス2005カレンダー | 書評:日本の写真家19 桑原甲子雄 | 書評:少年の日々/イジス | 書評:過ぎ去りし日の恋人たち/イジス |

2005年05月31日

書評:百年前の日本 〔普及版〕 モース・コレクション写真編

『百年前の日本 〔普及版〕 モース・コレクション写真編』(編集:小西四郎,岡秀行,出版社:小学館)


明治のお雇い外国人であり大森貝塚の発見者であるE.S.モースがコレクションした明治の日本の写真集。これらの写真はモースが持ち帰り、アメリカ合衆国のマサチューセッツ州のセイラムにあるピーボディー博物館に100年間保存されていたものだ。100年前の写真であるのに画質はよい。彩色されているものも多くあり、色つきで見る明治は不思議の感がある。

東京の都心、郊外、地方、近代的な建築物、藁葺きの家、農民、職人、商人、子ども、遊女などじつにさまざまな被写体が撮られている。都心の一部以外はまだまだ江戸時代のままの古い日本であったようだ。近代的なものはほとんど見当たらない。それがかえって江戸の生活を伝える写真として貴重である。

当時は写真が露光するには時間がかかったし、機材も大きい。スナップなどという手法は存在しなかった。大きなカメラの前に被写体を集め、ポーズをとらせるなどの演出がなされている。本来室内でやる作業も外でやらせている。これはしかたないところ。しかし、自然な表情で笑う子どもの写真などもあり、それなりに臨場感を伝えているのに驚かされた。

浮世絵に描かれた江戸や明治の東京をリアルな写真で見る面白さ。写真の記録性はやはりすごい。おすすめの一冊。

モース、明治、子守、morse_meiji.jpg
モースコレクションより「子守」

人気ブログを紹介してます。  click on blog ranking
  

2004年12月11日

書評:我われは犬である/エリオット・アーウィット

『我われは犬である』(エリオット・アーウィット、宝島社)原題は"To The Dogs"。

上のリンクは文庫本に張ってあるが、私は大型のソフトカバー版で読んだ。この本の写真が用意されていないのでアーウィットの別の写真集のものを使った。

エリオット・アーウィットは鮮やかに場面を切り取る現代有数の写真家。卓抜な対比とユーモア感覚が特徴ではないだろうか。この写真集にもその特徴が発揮されている。思わず笑みがこぼれてしまうような写真が多い。

冒頭にアーウィット本人による解説がついている。それによるとこれは「犬の写真の本ではない」という。「写真の中の犬の本」なのだそうだ。アーウィットの個性や「感情やムード」が犬が写っている写真を通して現れているということらしい。

アーウィットは犬が人間と生活する様子を独自の視線からとらえている。犬のいるスナップ写真として面白いと思う。しかし、たんに可愛い犬の写真を見たいなら、この写真集はふさわしくない。そのあたりを了解してご覧ください。

人気ブログを集めてあります。  click for blog ranking
  

2004年12月10日

書評:新正体不明/赤瀬川原平

『新 正体不明』(赤瀬川原平、東京書籍)

正体不明シリーズの最新作。最初の正体不明から10年たったそうだ。

赤瀬川が撮るものはトマソン物件や奇妙な物件を探す路上観察的なものから「風情」「味わい」へと変化した。もちろんそれは赤瀬川流の風情であって、はじめて氏の写真を見る人には伝わりにくい至極微妙なものだ。この写真集にはそうした微妙な写真がたくさん掲載されている。

写真にはそれぞれキャプションがついていて、写真を見た後にキャプションを読むと、なぜ彼がこの写真を撮ったのか、見どころはどこなのかがわかるようになっている。キャプションを読んだあとに写真を見ると味わいが深くなる。そして事物を見る目が複雑になり、世界が広がっていく。

赤瀬川ワールドには感心させられることが多いし、いろいろと教えられる。とりわけ自分なりの味わいを見つけて撮る姿勢には影響を受けた。こういう写真の楽しみはわかる人とわからない人にはっきり分かれるのじゃないだろうか。自分の写真を他人に見せたとき「なんなの、これ?」と反応されたことがある人は赤瀬川ワールドへいらっしゃい。

人気ブログを集めてあります。  click for blog ranking
  

2004年11月21日

書評:セーヌ左岸の恋/エルスケン

『エルスケン写真集 セーヌ左岸の恋』(エルスケン、東京書籍もしくはエーテーアートブック)

エド・ヴァン・デル・エルスケン。オランダ・アムステルダム生まれの写真家。

1950年年代の前半にパリのセーヌ川左岸サンジェルマン・デ・プレで撮影した写真にエルスケン自身がストーリー性のあるキャプションをつけて写真集としたもの。架空のフォトストーリーだ。

世界各地からパリのカフェに集まる金のない若者の生態をアンという個性的な女性を中心に描いている。住むところがない彼らはカフェや映画館、地下鉄で眠る。セックスをするときはアパートを借りているやつの部屋を借りる。

あとからストーリーをつけたといっても写真そのものはリアルだ。ストーリーを抜きにしても十分に成立する。むしろこんなちゃちなストーリーならつけない方がいいくらいだ。

今見ても新鮮なのだから、当時としてはかなりインパクトはあっただろう。無目的で空虚で自堕落でちょっとは夢をかかえている若者たち。けっして美しくはないが、印象深いのは確かだ。

それにしても邦題はロマンチックすぎる。写真の印象はもっと猥雑感がある。「恋」って感じじゃない。

エルスケンのお姿…二眼レフを持ったジェームス・ディーン(kazu-dogさんの受け売り)


人気ブログを集めました。  click for blog ranking
  

2004年11月06日

書評:腕白小僧がいた/土門拳

『腕白小僧がいた』(土門拳、小学館文庫)

土門拳が子どもを撮った写真を中心に土門自身があちこちに書いた文章を集めてある。途中に、エッセイストの群ようこ、土門の長女の池田真魚のエッセイが入り、最後にノンフィクション作家、柳田邦男のエッセイが入る。

どれも見たこのある写真ばかりだが、やはり傑作、名作が多く素晴らしい。土門が病気で歩けなくなってしまったことはまことに惜しい。手持ちカメラで撮り続けたらどんな傑作が撮れたかわからない。この感想の裏には歩けなくなってからの土門はつまらないという否定的な評価がある。私には後期の土門はよくわからない。

これらの写真が素晴らしいのは今ではもう見られない子どもの姿が記録されているからでもある。貧しくても人とぶつかりながら全身で遊んでいた輝く子どもの姿が見事にとらえられている。日本が豊かになったのはけっこうなことだが、喪失したものも大きい。そのことをしみじみと感じさせる。

土門のエッセイで一部やらせ写真があることを知った。壁に映った子どもの影を撮ろうとしていたら、子どもがよけてしまった。キャラメルをあげて元の位置に立たせたらしい。しかし基本的には子どもの素の姿をとろうと努力していたことは写真を見ればわかる。

(過去発表したものを加筆訂正)

よろしければ応援お願いします m(__)m  click for blog ranking  

2004年11月04日

アンセル・アダムス2005カレンダー



『Ansel Adams 2005 Calendar』

アマゾンを見ていたら、なんとアンセル・アダムスのカレンダーが出ている。やっぱり外国にはあるんだな、と妙に感心してしまった。この表紙の写真からしていい。手元の写真集には載っていないので、食指が動く。

アダムスというと雄大な自然を完璧な露出で撮影し、完璧なプリントに仕上げる写真家というイメージがある。しかし、この写真には厳しさの中にも繊細な印象がある。私の持っている写真集にも花や草の写真もあるし、人物写真もある。やはりいろいろな面のある人らしい。

売上げもいいようで、写真の上位にランクされている。つまらない風景カレンダーを部屋に飾るよりはやはりこっちだろう。それにしてもアンセル・アダムスのカレンダーなんてかっこよすぎる。

あ、そうそう、これは言っておかないと。当然モノクロです。

人気ブログ紹介はこちらから  click for blog ranking
  

2004年10月02日

書評:日本の写真家19 桑原甲子雄

295cee84.gif『日本の写真家19 桑原甲子雄』(岩波書店)を読了。

写真美術館の写真展で見て以来、桑原甲子雄はもっとも好きな写真家の一人だ。

この写真集はもっとも魅力のある昭和10〜12年頃の写真から1980年代までを網羅している。おそらくほとんどが見たことのある写真ばかりなのだが、巻末の「桑原甲子雄 町と自分を見つめる行為」という桑原の言葉を集めた文章が載っているので読む価値はあった。

そこで桑原はリアルな生活感を写したかったという意味のことを繰り返し述べている。なるほどと思う。実際にそういう写真が撮られている。

写真ではやはり初期のものがよい。生き生きとしているし、好奇心をそそるような面白い場面を写している。なんといっても情報量が多い。当時、商店では何が売られていたのか、どんな店構えだったのか、どんな看板や張り紙の広告が出ていたのか、どんな服装の人たちが歩いていたのか。そういうことが1枚の写真にぎゅうぎゅうに押し込まれている。

ただ写真によってできあがりがバラバラだ。ピントがあっていないのかボケているものや急いで撮ったためか半端に傾いているものがある。それもまた臨場感か。

木村伊兵衛はつまらないが、桑原甲子雄はすこぶる面白い。

Cozy's モノローグ…を読んだら  click for blog ranking
  

2004年09月30日

書評:少年の日々/イジス

『イジス写真集2 少年の日々』(トレヴィル/リブロポート)

990db978.jpg昨日の「過ぎ去りし日の恋人たち」の続編だ。

タイトルが示すように子どもの写真が多く収められている。あまり裕福ではない地域の子どもの様子が生き生きと捉えられている。犬、サーカス、ピエロ、老人など被写体は多岐にわたっているが、どれも子どもたちの写真と違和感なく溶け込んでいる。

photo by IZIS

場所はほとんどがパリのようだが、一部イスラエルの写真も混じっている。解説はないのだが、他の写真集で調べてみた。

「過ぎ去りし日の恋人たち」に比べると、こちらの方がいい写真が多い。懐かしく、楽しく、ちょっと悲しげなところもよい。入手するチャンスがあればこの「少年の日々」を選びたい。

イジスはいい写真家だ。それなのに日本ではあまり知られていない。写真集もほとんど出ていないのではないか。私としては、ブレッソンよりもドアノーよりもアーウィットよりも推したい気分だ。それなのに人気がないのはおそらく記憶に残るようなインパクトのある名作がないからだろう。

言ってはなんだが、ドアノーなんかは「市役所前のキス」だけではないのか。私はドアノー展で購入したメリーゴーラウンドのポスターを部屋に貼っているが、一般的にはあのキス写真の方がはるかに知られている。写真家の名前は知らなくてもあの写真なら見たことがある人は多いはずだ。イジスにはそういう名作がない。

しかし、イジスはいい。
  

2004年09月29日

書評:過ぎ去りし日の恋人たち/イジス

『イジス写真集1 過ぎ去りし日の恋人たち』(トレヴィル/リブロポート)

ロニスの写真集を読んだ日(つまりクラインの写真展でがっかりした日)にイジス(IZIS)の写真集も2冊読んでいたので簡単な報告を。(写真集も「読む」っていうのか?)

イジス(1911-1980)はリトアニア生まれのユダヤ人で19歳でパリへ移住している。本名はイスラエル・ビーデルマン。「イジス」はユダヤ人にはきびしすぎた時代を生きるための偽名だ。

小さい体裁の写真集だ。集められた写真はタイトル通りパリの恋人たちが多い。写真の登場人物たちはモノクロの柔らかいトーンの中で安らいでいるようだ。ちょっと前に流行した「いやし系」といったところ。

おそらく若い女性に売ろうと企画されたのだろう。甘ったるくおセンチな印象の写真ばかりなので不満が残る。イジスがどういう写真家か知るよりもオシャレな写真を楽しみたい人向けだ。

この写真集は絶版で古本を入手するしかない。それならいっそのこと洋書を購入するのもいいかもしれない。

a8ba9452.jpgちなみにイジスの写真で私が一番好きなのは、パリの花売り母子の写真。タイトルは何というのだろう。この写真集2に含まれているが、どういうわけかサイズが小さかった。この写真のポスターかポストカードが欲しい。


photo by IZIS